「藤本さん。悪いんだけど これ 今日の日付で 処理してもらえる?」

渉外担当の 中井さんが 申し訳なさそうに 私の横で言う。


出納担当の私は 時間までに 金庫を締めなければいけない。

中井さんに 頼まれた時間は ギリギリで。


「わかりました。急いで 処理しますね。」

心の中では 『遅いよー』と思いながら

笑顔で 中井さんに 頷く。


「ごめんね。後で 埋め合わせ するから。」

中井さんは 私に 両手を合わせて 離れていった。


『埋め合わせって…』

数秒 中井さんを 見つめて

私は 早送りのような動きで 電卓を打つ。


どうにか 時間に間に合って。

処理が終わって フウッと 息を吐く。


顔を上げると 離れた席の 中井さんと 目が合う。


一瞬 忘れていた感触が 胸を包む。


光司に 片思いしていた頃の

キュンとする思い。


『私 何しているんだろう…』

私は 曖昧な笑顔を 中井さんに返して

1人で そっと首を振った。


今 感じた思いを 振り払うように。