「……ミカ、俺の家までバイクで行けるか?それとも、そんな元気はないか?」

 俺の後に続いて裏口のドアから出てきた仁が顔を覗き込んで、首を傾げる。

「……行ける。大丈夫」

「ん。無理はすんなよ」

 仁が俺の背中を撫でて、優しい声で囁く。

「……うっ、うっ、うぁっ」

 急に涙が押し寄せてきて、俺は仁の胸に顔を押し付けて、嗚咽を漏らしながら泣いた。

「……結賀の家いくか? ここから一番近いし」

「……うん」

 俺は涙を拭って、小さな声で頷いた。


**

 バイクを走らせると、五分くらいで八階建てのマンションについた。

どうやら、ここのどこかに結賀の部屋があるらしい。

ピンポーン。

 仁は四階の右端にある401号室で足を止めると、そこのインターホンを押した。

「ふぁ。お前ら、こんな夜中に来んなよ。今一時だぞ」

 ドアを開けた結賀は、小さな欠伸をして眠そうな態度でいった。

「悪い、結賀。ミカ泊めてくんない? 俺はミカが寝たらバイクで家帰って、寝るから」

「……布団を二人で一つ使うんでもいいなら、仁も泊まっていいよ」

 仁を見ながら、結賀は笑って言う。

「いいのか?」

「ああ。つか、こんな時間にバイクで家まで帰ったら補導されかねないし、むしろ泊まれ」


「それもそうだな。じゃ、俺も泊まるわ」


「ん。何か飲む? ココアならあるけど」

 結賀が仁の頭を撫でて、首を傾げる。

「じゃあココア」

「夜にココア飲んだら太るぞー」

「提案したくせに言うなよ」

 仁は笑いながら、結賀にツッコミを入れた。

「……ミカ? 何かいつにも増して元気ないな?」

「えっ。あ……その、色々あって」

「そっか。とりあえず上がれよ。ミカは何飲む? ココアの他には紅茶と麦茶と、オレンジジュースとコーラがあるけど」

「……オレンジ」

「はいよ」

 結賀は玄関先の廊下の奥にあったダイニングに向かった。俺と仁は何も言わず、結賀の後を追った。