「せ、先生。伊藤先生!」

わたしはとっさに先生の名前をよんで駆け出していた。

先生は振り返ると、わたしの姿に気付き、目を見開いた。

「林さん?どうしたの、その髪。それにYシャツも濡れてるじゃない」

先生は大慌てでバッグの中から取り出したハンドタオルでわたしの髪を拭ってくれた。

「何かあったの?源田さんにやられた?」

先生は苦し気な表情で尋ねた。

「違うます。カスミちゃんじゃない」

「じゃあ、いったい誰に……」

「クラスの子達です……。先生、わたし……カスミちゃんだけじゃなくてクラスの子にもいじめられるようになっちゃった」

フッと呆めたように笑うと、先生は全てを悟ったのか何も言わずにギュッと抱きしめてくれた。

「先生……洋服汚れちゃうよ?」

「いいのよ、洗えば済む」

先生からは甘くて優しい柔軟剤のような匂いがした。