ぽろぽろと涙が溢れた。もう何がなんだかわからない。

「あの人を離してあげて」

 お願いすると、景虎はしぶしぶ警備員に綾人を放すように頼んでくれた。自由になった綾人は私の横に跪く。

「ごめんな、萌奈。お前を殴る気なんて、これっぽっちもなかったんだ」

「もういいから」

 今は誰のどんな懺悔も聞きたくない。私だって、婚約者である彼を裏切り、景虎と住んで、男女の関係になってしまった。

「ごめんなさい。私を家に帰してください」

 景虎の目から力が失われていく。暗くどんよりと濁る彼の目を見ながら、誰が呼んだのかわからない救急車のサイレンが近づいてくるのを聞いていた。