「もっと楽にしろ。何も怖くはない」

 深いキスをした後で囁いた彼の手が、私の胸の膨らみを包みこむ。

 敏感な部分に刺激を受け、思わず声が漏れた。

 彼は気をよくしたのか、舌と唇でさらなる刺激を私に与える。

 大きな手。繊細な指先。器用な舌。

 ぼんやりしたオレンジ色の灯りを背負った彼は、私の夫。

 覆いかぶさる素肌の感覚、彼の体温、指の感触は、もうよく知っているもののはずなのに。

 私の身体は、すべてが初めてのように初心な反応を示す。

「……っ、ねえっ、本当に私、いつもこんな風にしてた……?」

 思い出せない。

 夫である彼と出会ったときのこと、何度も抱かれたはずの夜も。

「余計な事を考えるな。今はただ、俺を感じていろ」

 彼は自らの唇で、私の無駄なおしゃべりを封じた。

 指先で慣らされた場所に、彼の熱が押しつけられる。全く知らない感覚に腰が引けた。