言わば思いやり婚約。そんな言葉が脳裏をよぎった。

思いもかけない話がふってきたのは、婚約者と婚約を解消した七月から二ヶ月後のことだった。九月中旬、まだまだ暑い今日この頃、私は夕食後のリビングで両親と向かい合っている。

私は黙々とデザートのシュークリームを食べている。コンビニスイーツだけど、生クリームとカスタードがどちらもたっぷり入っていて美味しい。最近のコンビニは、下手なケーキショップより美味しいものを作るから侮れない。
私は、目の前に居並ぶ両親の話を聞きながら、無心で二つ目のシュークリームの封を開けた。

「聞いているのか、咲花」

父が険しい表情で言った。私は聞いていますの意味で頷いた。何しろ、口の中にはシュークリームがいっぱいで、頷くのが精一杯。無理して喋っても、ちゃんとした問答にならないと思ったのだ。

「あなたが嫌ならお断りもできるのよ」

母が心配げに私を見つめ、横から父が険しい声で言う。

「そういうわけにはいかない。うちは榛名の分家だし、竜造(りゅうぞう)と俺は従弟だ」
「先に婚約を破棄してきたのは傑(すぐる)くんの方じゃありませんか。それを今度は兄の佑くんと婚約しろだなんて!咲花をなんだと思っているんです」

普段ひかえめな母が怒っている。

そう、私は婚約破棄二ヶ月目にして、新たな婚約の話を振られている。
相手は元婚約者・傑の兄・佑(たすく)。ふたりとも私のはとこにあたる。
普通に考えたら、かなり異常な話だ。