澄み渡る青い空には雲ひとつない。美紅の心と裏腹に、秋特有の空気は嫌味なほどに清々しかった。それが避暑地としても有名な別荘地ならなおさらだ。
美紅たちクリエーニュのスタッフは、親睦会と称して一慶と晴臣の父親が所有する別荘にやって来た。

美紅をなによりも驚かせたのは、一慶も同行したことだった。
晴臣が来るのは前もって知っていたが、どうして一慶まで。
危うく佐和子に一慶の車に乗せられそうになったが、素早くかわして晴臣の車に乗り込んだ。
美紅はひとり悶々としながら、心と一緒に車に揺られた。

琴乃と紀美加をはじめとした同僚は、イケメンがふたりも来てくれるなんて!と大いに盛り上がっているが、美紅はそれを遠巻きに眺めるだけだ。

一慶とひと悶着があったのは一週間前。顔を合わせるのが怖くて、美紅は翌日、仕事帰りに佐和子のマンションに泊めてもらおうと行ったのだが、当然ながらそこには幸司がいる。ふたりの邪魔をするわけにはいかず、一慶との一件を話すわけにもいかず、荷物を取りに来ただけだとごまかすしかなかった。

マンションではこそこそと隠れるように生活し、一慶と顔を合わせないようにしていた。それでも食事だけはきっちりと朝晩準備する約束事は守っている。
一慶は食べ終えた食器類を自分で片づけ、〝うまかった。ごちそうさま〟と必ずメモを残していた。