「えー、今日から営業部に戻ってきてくれた、うちのエース、成宮 蒼(なりみや あおい)くんです。はい、拍手。」

 辞令が出た翌月、彼は本当に営業一課に戻ってきた。


 紗和ちゃんと一緒に、頼まれた資料を運びながら営業部の横を通ると、ちょうど彼の紹介が行われていた。でも、私は怖くて見ることもできず、足早に通り過ぎようとした。


「あっ、待って、蕪木さん!」

 すると、ろくに前も見ずに歩いていたせいで、歩いてくる人に気づかずそのまま誰かとぶつかった。

「すみませんっ。」

 私は落ちた資料をかき集めながらそう言うと、目の前にいた人を見て手が止まった。

「なーにやってんだよ。」

「須崎くん。」

 ぶつかった相手は、須崎くんだった。ちょうど出社してきた様子の彼は、持っていた鞄を床に置くと、私の落とした資料を拾いながら呆れた表情を浮かべる。


「どうしたの?今、出社?」

「電車止まってた。部長には連絡してあるから大丈夫なの。」

「あ、なるほど。」


 その時、営業一課の部屋からは、成宮さんの声が聞こえてきた。

 拾ってもらった資料を受け取りながら、須崎くんとの間になんとなく気まずい空気が流れ、さっさとこの場所から離れたいと思った。