「蕪木さん、ランチ行きませんかー?」

「あっ、うん!行く!」

 向かいの席に座っている1つ下の後輩――紗和(さわ)ちゃんが、12時の鐘と共にパソコンを閉じ、立ち上がった。


「でも今日珍しかったですね〜。蕪木さんが遅刻ギリギリなんて。いつも超余裕持ってくるのに。」

 財布と携帯片手に会社のビルを出た私たちは、近くの『farfalla(ファルファーラ)』という行きつけのイタリアンレストランにきていた。そして、いつものテラス席に通されると、紗和ちゃんが思い出したようにそう言った。


「あー、ちょっと今日は朝からバタバタしてて。」

 今朝もまた祐一のペースにのせられて、危うく遅刻するところだった。私は彼との朝を思い浮かべながら、苦笑いでそう言った。


 すると、ニコニコと怪しげに私を見つめる紗和ちゃん。

「えー、もしかして、彼氏さんとイチャイチャしてたからじゃないですかー?蕪木さん、もうすぐ結婚するからってもー。」

「ちょっと違うってー。」

 無邪気に私をからかう彼女とは、新入社員として広報課に配属になった時から仲が良く、私にできた初めての後輩。そして、私が婚約していることを知る数少ない人物でもあった。