「オーボエ! そこ少し遅れてる。
1音目、パン!と入って。」

「はい!」

(そう)先輩に名指しされて、私は背筋を伸ばして気を引き締める。

3年生が卒部し、9月に新しく部長になった2年の高梨 奏(たかなし そう)先輩を中心に直江(なおえ)中学吹奏楽部は新体制で纏まりつつある。

私、森宮 美音(もりみや みおん)は、直江中吹奏楽部1年、オーボエを担当している。

オーボエは、見た目はクラリネットによく似てるけど、音色は全然違う。

優しい音色の木管楽器が多い中、高く強く響き渡る音色のオーボエは、ソロを任される事も多い、吹奏楽の中でも花形の楽器だ。

各学年3〜40人、総勢100人を超える吹奏楽部だったが、3年生が抜けたので、現在は67名。

目下、地域のイベントでの依頼演奏に向けての練習中だ。


「あれ? ユーフォ? 誰か音 間違えてない?
34小節目からユーフォだけ。」

奏先輩は絶対音感を持ってる。
2年生で絶対音感を持ってるのは、奏先輩と石崎 茜(いしざき あかね)先輩の2人だけ。

2人は同じ音楽教室で4歳から同じグループでレッスンを受けてたらしく、今でも仲がいい。

1年生で絶対音感があるのは、私と智恵(ちえ)の2人。

私と智恵も奏先輩たちと同じ音楽教室出身。

絶対音感は、幼少期からの訓練で必ず身につく。