「菫ちゃん大きくなったら僕と結婚してね」

「うん。菫絶対に潤と結婚する」


桜の木の下で指切りげんまんした5歳のあの日。

お母さんのフルートの音色が聴こえる。
曲名は、ホールニューワールド。未だに色褪せる事のない普及の名曲だ。



あの曲の歌詞にもあった。連れて行くよ――君の知らない、素敵な世界。

いつの間にか潤と出会い25回目の春が来てしまった。

小さい頃にした約束なんて、潤はすっかり忘れてしまっている事だろう。

幼馴染なんて何も意味を持たない事を悟ったのはいつの頃からだっただろう。



25年経った今、一緒に遊んでいたお庭でフルートを片手に、ホールニューワールドを演奏する。

私と潤の家の間に咲いている大きな桜の木から、花びらが風でふわりと舞い散る。

目を閉じて再び開けると、そこには5歳の頃の私と潤が無邪気な笑顔を互いに向けて遊んでいる。

淡いピンクの隙間から、青々とした緑が生い茂って、春の終わりを告げる。