清貴さんと夫婦として過ごす日々は、穏やかで楽しい。

だからつい、数ヶ月前までの自分を忘れてしまいそうになる。



目まぐるしい街で、生徒を目の前に教壇に立つ自分。

憧れの教師となり、やりがいやプレッシャーと闘っていた日々。

毎日があっという間で、でも愛しかった。



……だけど。



『杉田先生』



腕を掴む手と、荒い息遣いがまだ記憶から消せない。



『杉田先生が誘ったらしいよ』



生徒たちの間を駆け抜ける勝手な噂。



『杉田先生、あなたに原因があるんじゃないですか』



上司からの軽蔑した目。



『……ごめんなさい、仕事辞めることにした』

『そう……仕方ないわよ』



逃げ出した情けない自分と、冬子さんの落胆した声。



全て忘れられたら、ラクなのに。

今もまだ、不意によみがえるんだ。