side武



あれから数分ほどいつものように紅と軽口を叩き合った後、紅は自分の部屋へ帰った。今この部屋には当然だが俺だけしかいない。


「はぁ」


そこで1人ついたため息は自分が思っていたものよりも大きなものだった。

突然、何故かすごく怖くなった。何が怖いのかよくわからない。だが、ここ最近紅を見ているとどうしようもなく怖くなる時がある。

紅は俺にとって最大の理解者であり、ライバルであり、親友だ。これからも共に歩む存在。俺と同じ、強く誇り高い四神の一族の末裔。
紅は女だが、それを感じさせない力を持っている。そしてその力を得る為に誰よりも努力を惜しまない奴だった。そんな紅が何故。


「…」


疑問への答えはもうあった。先程紅が俺にくれたものだ。紅が言うにはもう〝疲れてしまった〟らしい。

あの時の笑顔が何故か忘れられない。
あの全てを諦めてしまったかのような笑い方をどこかで見たことがある気がした。俺はその笑顔が本当に嫌だった。紅を失ったあの日と同じ笑顔だから。


「…は?」


訳がわからない。自分の思考に混乱する。
あの日とはなんだ。そんな日なんて知らない。


「…っ」


訳のわからない怖さが俺を支配する。

ふと視線を向けた先には先程紅が懐かしんでいた初等部の入学式の写真が目に入る。
そして気を紛らわすように俺は丁度あの頃のある日のことを思い浮かべた。