side紅


屋内にある広い武道場には4つほど実戦をする会場が用意されており、その4つの会場で一気に実戦が進行される。
そして生徒はその上を囲うようにある席に自由に座り自分の番を待つ間、実戦を観戦するなどし、自由に過ごすのだ。

私も例に漏れず、いわゆる2階席に腰を下ろし実戦を観戦していた。
が、頭の中では今朝のことを考えていた。

今朝の蒼の様子は明らかにおかしかった。変な食べ物でも食べたのか私を〝女〟として扱ってきたのだ。
前回はそんなことなど記憶の中では一度もなかったのに。

だが、蒼は同時に私に忠告もしてきた。明らかに気を抜きすぎている、と。
それを注意する為の嫌がらせだった可能性も非常に高い。

蒼はあぁ見えて結構腹黒く、毒のある奴なのだ。
私はその辺は付き合いが長いのでよく知っている。


「おい。紅。ちゃんと見てんのか」


今朝の蒼のことを考えていると先程一回戦を終えたばかりの武がこちらに帰って来て早々に私に話しかけてきた。


「見てますぅ」

「じゃあ、次の対戦相手は誰なんだよ。言えんのか?」

「あ、え?え、えっとね」

「やっぱ見てねぇじゃねぇか」


いきなりの武の質問に答えれないでいると武が呆れたように大きなため息をつく。


ええそうですよ。見てませんよ。バレましたか。


次の対戦相手くらい2回目なのでパパッと思い出せると思ったが現実はそんなに甘くなかった。そもそも前回秒で倒した相手なんて覚えてすらいない。

準決であたって負ける相手ならはっきり覚えているんだけど。