そして時は巡り、平安時代。煌びやかな貴族文化が栄え、仮名文字を使用した優れた文学作品が数多く生まれた。

立派な寝殿造の屋敷には、貴族の間で美しいと囁かれる貴族がいた。その名前は時雨。

美しい容姿は多くの姫君を虜にし、時雨の存在は社交界で有名だった。そんな時雨は叶うことのない恋に溺れている。

その相手とはーーー。



寝殿造の屋敷の中にいる舞殿。そこには時雨はもちろん、多くの貴族たちが集まっていた。その誰もが舞が始まるのを今か今かと待っている。

「来たぞ!」

貴族たちのざわめきに、時雨は頬を赤く染めて微笑んだ。その視線の先には衣装を見に纏った美しい白拍子、桜鈴がいる。

白拍子とは、平安時代末期に誕生した歌舞の一種だ。扇を手に美しい舞を披露する。

桜鈴がお辞儀をし、立ち上がると同時に音楽が始まった。桜鈴の舞に誰もが目を、心を奪われていく。

「桜鈴、今宵も見事な舞だった」

舞が終わると時雨は真っ先に桜鈴に声をかける。桜鈴は「ありがとうございます」と微笑み、時雨はその唇を奪いたくなった。