その日の夜のこと。
わたしは蒼野に引っ張られて外に出た。
「バイク、乗れるか?」
「乗ったことはない」
この年でバイクに乗ったことなんてある人の方が少ないだろう。
「じゃ、しっかり掴まれよ」
「掴まるってどこに…」
「腰に抱きついてろ」
抱きつく?
柄じゃない。
否定しようとしたけど、バイクのエンジンが掛かったから有無を言わずに抱きつかざるを得なかった。
「どこに行くの?」
「着けばわかるよ」
前にもいくつもバイクが走っている。
速い。
速い。
背中に埋めたいた顔を上げて少しだけ背中から顔を出すと冷たい空気が顔に触れた。
「怖くねぇか?」
「全く」
「ははっ!女っぽくねぇやつ」
怖さなんて、最近感じた覚えがない。
しばらく走ってついたのは、路地裏でほんの少しスペースがあるところ。
そのスペースでは、2つのチームが
喧嘩を行っていた。
圧倒的に片方のチームが強い。
どんどん殴って、倒していく。
綺麗、そう思った。
生きるため、自分を守るために流す血が
物凄く綺麗で、美しく見えた。
あの人たちは、生きようとしている。
あの人たちは、助かろうとしている。
それだけなのに、尊敬できた。