『ガーッ、ジャーッ、ギュギューッ..』

白のレンタカーが、楽しそうに 轍を付けながら、波打ち際を走っている。

『ザザーザー…、ザーザー…』

轍を洗う、波に タイヤは沈む事なく 廻る。

『ギュッ!ギューンギュギューッ!キーキー!!』

たまに、ドリフト紛いに 勢い良くハンドルを切ろうとする、嬉々とした 運転席の男←カスガ。

「先輩!!スッゴいテンション上がるっす!砂浜走るって、CMみたいっすね!よっ、」

『ジャーツツツ、ガッガーッ!!』

助手席で、アシストグリップを 苦い顔をして握る男。レン。

「カスガ。余り、無理すると レンタカーだよ?タイヤ、大丈夫なのか?」

そう 運転席の後輩に 無駄な苦言をすると、レンは ため息を派手について、ミラーに 視線を投げた。

「カスガ。後ろの車。きっと、迷惑してるよ。そろそろ、やめようか?」

『クッ、グン!』

「・・・」、


「ハハ!ウソです!了解でーす!!」

ようやく、通常運転に ハンドル裁きを戻した カスガは、今度は、波に寄せて車を走らせる。
途端に、タイヤから水飛沫が派手に上がった。


「カスガ。やめろ。」

「えーっ。スッゴい気持ちいいじゃないっすか?!」

飛沫は、強く吹く風に乗って、
車体に叩きつける。

レンが、口を弓なりにして

「しつこい。後ろが、迷惑するよね?」

作り笑顔で、言い放った。

こいつ、後輩カスガは、
今日 ずっと、こんな調子だ。

浮かれすぎだ、いくら 非日常な風景だからと、レンは 目を細める。

「カスガ、顔合わせまでに、酔いそうだ。やめろ。」

そう、氷の貴公子の様な美顔を、
苦虫を噛み潰したような表情にして、
レンは、カスガに最終宣告をした。

『ザーザー…ザザー…』

何羽か、波の上を海鳥が 翔んでいる。


羽田から、里山空港に 降りたってからの 後輩は
能登半島の自然に圧倒されているのだろう。

日本海に、最もせり出した この半島は、ぐるりと海岸線に囲まれ、その為に出来る 景勝がいい。

晴れた空の 日本海

無理もない。
あえて言うなら、
空気の猛々しさ、
粗野な風が、

雄に 何か 湧くモノがあるのだろう。

そして、今 8キロもある
『なぎさドライブウェイ』を走る車。

砂浜をそのまま、車やバイク、自転車で走れる。
もちろんバスもだ。
たまに、大型観光バスが、波打ち際を走っている。
あの運転手も、ノリノリか?
笑える。

あれだ、無礼講・・・

「スゴいスゴいっす!向こうの方に ドでかい風車も 見えますよ、先輩!まるで 映画みたいっすね。叫びそうっすよ!!」

カスガ・・・。

「そうだね、風景が、浮世離れしてるよ。どこかしら、風力発電の羽が回っているからかな。カスガのネジも飛んでるのか?」

興奮甚だしい、カスガだ。

よくやく レンは、助手席のアシストグリップから 手を離して、

水色の空と、紺色の海を見る。
飲み込まれそうな 独特な紺色。




「航空大学って、空港の中にあったんすね。ドローン専門の学科、あれ、俺も受けてみたいっ!」



まあ カスガは、映像系が専門分野だからね。
と レンは 電話を開く。
窓から潮風を受けていたのを、ウインドウを閉じた。

「小松の空港は 自衛隊の駐屯だし、北陸の特性かな。あと、今回は福井空港にも顔出すから、覚えておけよ。」

レンは、手早く車の案内表示を開いて、追加の入力をした。

「先輩。福井って、空港ありましたっけ?」

車に入力された地図を、片目を瞑って、カスガが 確認する。
海から差し込む、太陽が白く光って、画面が見にくいらしい。

「あるんだよ、こっちからなら、あわら温泉の向こうになるか?グライダーとか、ヘリの空港だから、定期便は もうない所だ。その代わり、大学や、研究所の航空部が使ってる、春江空港だ。」

あー、春江ですか?!とカスガは納得の声を上げた。


右にはどこまでも続く 紺、日本海。
左には、緑平地に、風力車の巨大な姿。
空は水色。
足元は白く泡立つ波に砂。


「先輩と、営業先周りの旅!最高のロケーションっすね。」

「さっきもだけど、次も大事な所だから、宜しく頼むよ、カスガ。」

レンは、チラリと運転席を見る。

そろそろ『終点( END)』と看板が出て来て、国道に入る道に、なるはずだ。
BGMは まだ 鳴らない。

国道に戻っても、当分は海沿いの直線道。

この道は、
日本から北極に向かってそそり立つ半島の直線道。

あとは、北海道の232号留萌からはしる道ぐらいか、
北極に向かうような海岸道は。

まるで、果てが無い 風景は続く。