嶺は私がくることを想定して、それまで客間として使っていた部屋に自分の荷物を移動してくれていた。
私の服や化粧品が置いてある寝室は私につかわせてくれるらしい。

「疲れただろ。紅茶、のむ?」
恭の家にあった私の荷物は大きな旅行用のカバンひとつに簡単に収まった。
そのかばんを運んでくれた嶺は寝室にカバンを置くと私の方を振り返った。

「荷物、ありがとうございます。」
まだ敬語を使ってしまう私。
「いいえ。」
ぎこちなく笑う嶺はまだ距離感がつかめていないことを実感して、どう接していいか戸惑っているようだった。

「鈴」
「はい・・」
長い廊下。寝室の前で嶺が私の方を真剣な目で見た。