「「・・・。」」

大型スーパーの中にあるファストフード店の二人がけの席に向かい合って座る。

彼女はオレンジジュースのS、俺は炭酸飲料のSを頼んだ。それをトレーからおろしてそれぞれ自分の近くに置く。トレーの上には二人で食べようと買ったフライドポテトのMを箱から出して広げた。二人で注文してとりあえず俺が払い、彼女が半分のお金をくれた。別にこれくらい奢ってもよかったけれど。


正面からしっかりと彼女の顔を見るのは初めてだ。透き通るような白い肌。細い栗色の髪はレイヤーが少なく、肩より少し下で内側に入りサラッとまとまっている。切れ長の目に鼻筋が通った高い鼻。唇は少しあどけない雰囲気がある。涼しげな美人だけれど、特別大人びているというわけではなく、年相応だった。

身長は160cmあるかないかくらいだったろうか。黒い上下の制服、膝が全部出るくらいのスカート丈に学校のマークが入った白いハイソックスという上品な服装が彼女にはよく似合っていた。

爽乃、という漢字の名前も気高い雰囲気の彼女らしいと思った。『爽』という字には良くない意味もあると言っていたので調べてみたけれど、俺はいい漢字だと思った。


昨日、もしかしたら彼女からメッセージが来るかもななんて期待してしまったけれど来なかったので、自分から連絡しようと思ったものの、前日に電話したばかりで翌日に会う予定があり、特に用もないのに連絡するなんてうっとおしいだろうかと思って辞めた。そのせいかはわからないが、なんだか昨日は一日が長く感じてしまった。


「どうしようか?何したい?どこ行きたい?」

聞いてみると彼女は柔らかな表情になった。

「というか、今日も私にとっては思い出だよ。こうやって学校帰りに制服でファストフード来て、少しだけ食べ物頼んで、どうでもいいことだらだら話すの、憧れだったし。」

何だか胸がじんとした。こんな何でもないことをそんな風に考えられるんだな。

「なら、よかったよ。」

そう言ってポテトに手を伸ばすと彼女も手を伸ばしたので指先が触れた。

「「あ・・・。」」

二人とも手を引っ込める。なんだこれ、昔の漫画とかドラマでよくある展開のやつじゃないか・・・。

「そ、卒業式の後ってクラスで集まったりするの?」

彼女が慌てて口を開き、少し声が裏返った。多分言う予定じゃなかっ言葉を、指が触れた恥ずかしさをごまかすために発したんじゃないだろうか、とも思えた。

「中学の頃はそういうのあったけど、高校では特にないみたいだよ。そっちは?」

「うちも、仲良いグループとかでやるみたい。」

「行くの?」

「わ、私は特に・・・。」

誘われていないことが恥ずかしいのか俯いてしまう。

「俺も特に予定ないから、その日会おうか。」

そう言うと彼女は少し驚いた顔をした。

「いいの?これから誘われるかもよ?」

少し顔を上げて上目遣いになる。

「それはお互い様だろ。」

「どうかな・・・。」

「俺特にグループとか所属してないから。」

「私も・・・クラスの皆普通にいい子だけど、特に仲いい子が誰かって聞かれたら答えられないんだ。」

「俺もだよ。体育とかで二人組になる時とか困った。」

「私も!修学旅行の班とかも。」

今や彼女は顔をすっかり上げていた。

「別に一人でいいのに、一人で昼めし食ったりしてると先生に心配されたりな。」

「そうそう。私なんか知らない先輩にまで心配されて、『次、一人で食べてたらうちらの教室で食べよ?』とか言われて。親切で言ってくれたのはわかるんだけど・・・先輩達が卒業するまで、校舎や中庭のあちこちで隠れて食べてたよ。」

「それは大変だったな。」

「同じクラスの優しい子達が誘ってくれて一回だけ一緒に食べたりしたんだけどね・・・全然話合わなくて、お互い気まずくて・・・。多分クラスで嫌われてたというわけでもないと思うし、群れるのが嫌いとか、一人が好きとか、そういうのじゃないんだけど、結果一人だったんだよね。」

「俺もだよ。何でだろうな。」

そしてそれなのに何で今彼女とはわざわざ一緒に過ごそうとしているのか。謎である。

「・・・卒業式の後、もし何もなかったら、流行りのドリンク飲みに行かない?制服も最後だし。」

彼女は遠慮がちに言った。『そういうの、興味ないと思うけど。』とでも言いたげだ。

「いいよ。俺もあれ飲んだことないし。高校生らしいベタなことやってみようか。駅前に店あるし。」

そう言うと彼女の表情はパッと明るくなった。その表情を見て俺はまた胸の奥が少し疼いた気がした。



今日はとりあえず卒業式の日の予定だけ決めて帰ることにした。

───あ。

彼女と別れてから、聞きたかったことを聞き忘れたことに気がついた。