=万里くん

学校に着くと、まだ教室には誰も来ていなかった。

授業が始まるまで、まだ時間あるもんね……。

先にお花に水をあげに行こうと、カバンを置いて教室を出た。


水やりを終えて教室に戻ると、さっきとは違い、教室は活気に溢れていた。



「おはよう、桜ちゃん!」



登校してきていた日奈子ちゃんの隣の席に座って、笑顔を返す。



「おはよ、日奈子ちゃん」

「昨日引っ越ししたんだよね? 新しいお家はどうだった?」



日奈子ちゃんの言葉に、ぎくっと身体のどこかから音が聞こえた気がした。

お母さんの再婚と、その再婚相手さんの家に引っ越すということは、日奈子ちゃんには伝えていた。



「じつはね……」



万里くんのことは他の人には秘密にしようと思ったけど、日奈子ちゃんには言っておこう……。


私が詳細を話し終えると、日奈子ちゃんはただでさえ大きな目を、これでもかと見開かせた。



「男の兄弟が3人できた……!?」



大きな声で叫んだ日奈子ちゃんの口を慌てて押さえ、シーッと人差し指を立てる。