顔が見えないように、長く伸ばした前髪。
視力はいたって良好なのに、度の入っていない銀縁の分厚い丸メガネをかけて、ひざ下まで丈のある長いスカートをはく。
真っ黒の髪はおさげにくくり、どこからどう見ても地味な見た目。
……よしっ。
玄関の鏡で自分の姿を見ながら、頷いた。
「お母さん、行ってきます!」
「はーい! 行ってらっしゃい、桜」
お母さんに声をかけてから、玄関を出た。
私の名前は桃井桜。1ヶ月ほど前、高校2年生になった。
なぜこんな地味な格好をしているかというと、昔からの習慣のようなものだ。
「桜ちゃん、おはよう!」
教室に入ると、親友の日奈子ちゃんが笑顔でそう言ってくれた。