その後、ブライダルモデルなんて務まらないと何度も 遥先輩に懇願してみたものの、全く聞き入れてもらえないまま撮影 当日。



撮影現場でキョロキョロとあたりを見回して、青ざめる。



前回の撮影とは違って、スタッフさんの人数が桁違いに多い。



こんなところで撮影なんて、こ、怖すぎる……



撮影用のブライダルフラワーが搬入されて、スタジオが整えられていくのを見つめながら、血の気が引いていく。



「最初は俺ひとりのカットを撮って、それから凛花と一緒に数枚。俺と一緒だし、凛花の顔は写らないから心配しなくても大丈夫」



「できればいますぐ逃げ出したい……」



「ダメに決まってるだろ」



ううっ。



まさか、こんな絶望的な気分でウェディングドレスを着る日が来るなんて 思わなかった。



すると、スタジオの準備が整い、遥先輩の名前が呼ばれた。



「じゃ、いってくる」



慣れた様子で遥先輩がカメラの前に立った瞬間、タジオの空気が変わった。



目もくらむほどの精彩な華やかさ。



その場にいる誰もが、遥先輩の圧倒的な存在感に心をさらわれる。



強い瞳でカメラをとらえる 遥先輩の目つきが、表情が、仕草が、いつもと全然違う。



遥先輩の目つきって、あんなに色っぽかったかな。



あんなに大人っぽかったかな。



遥先輩は、プロのモデルなんだ。



「もっと冷たい感じで目線ちょうだい。そう、すごくいい」



突き放したような遥先輩の温度の低い瞳に、ぞくっとする。



「じゃ、つぎは笑って。甘える感じを強めに出して」



目じりを下げて、かすかに頬を赤らめて遥先輩が天井を仰ぐと、遥先輩の屈託のない笑顔にフラッシュの光が弾む。



カメラマンのどんな指示にも、それ以上のものを表現して返していく遥先輩に、ス
タジオにいるだれもが惹きつけられて、息をのむ。圧倒的で鮮烈な存在感。



これは、きっと天性の才能。



遥先輩のその姿を見ていたら、胸の奥がぎゅっとくるしくなって、なんだか涙が浮かんできた。



……遥先輩、すごい。



鈴之助は、愛嬌の良さと顔立ちの可愛さを武器に、努力を重ねてアイドルである自分を極めてきた。



でも、遥先輩は違う。



周りのひとの心を一瞬にして惹きつけて、その心を鷲掴みにしてしまう鮮烈な存在感と天才的な表現力を、生まれながらにして持っている。



遥先輩が望むかどうかにかかわらず、その場にいるだれも が、遥先輩の目も眩むほどの煌めきに心を 揺さぶられる。



遥先輩の撮影が終わって、心奪われたように呆然と立ち尽くす。



「凛花、どうした?」



「遥先輩、ものすごくカッコよかった 。天才だって、思った。……感動、したよ」



なんだか、泣きそう。



「惚れなおした?」



「うん、ものすごく」



「お、素直。それなら良かった」



用意されたペットボトルに軽く口をつけている遥先輩をぼんやりと見つめる。



遥先輩のまわりだけ強い光が差すような鮮烈な煌めき。



遥先輩は、選ばれた人なんだ……