その刹那、わたしの浮遊していたような感情が一気に引き戻される。
「っやっちったー。マジでごめん!」
「いえ、大丈夫ですか?ハサミとか入ってたので…」
わたしが机の端に置いていた、開けっ放しの筆箱と学生手帳が
前を通りがかった男子の手に当たり、落下してしまったのである。
しかも筆箱の中身が散乱してしまったものだから、男子は少し慌てふためいていた。
「いや、怪我とかはしてないから全っ然平気。……えーっと、
――…みずき、あかりさん」
「…、」
…まぁ、ね。いつものこと。
彼は落ちた学生証を見ながら申し訳なさそうに言ってわたしを見た。
多分ふりがなは目に入っていなくて、そのまま漢字を読んでくれたのだろう。
水城朱里。みずしろしゅりという名前は、数え切れないほど「みずきあかり」と読み間違えられてきた。
訂正するのも申し訳ない気がして、わたしはそのたび何事もなかったかのように返事をしてきたのだ。今だって、そうで――…、
「…“みずしろ、しゅり”さんだよ」