隼はオープン当日まで、本当にマンションには帰ってこなかった。店近くのホテルにソフィアと宿泊しているらしく、それが事業部内でふたりは恋人同士だとまことしやかに囁かれる要因ともなった。


「やっぱり恋人昇格だね」
「ソフィアさんに言い寄られたら、俺もイチコロだもんな」


そんな会話が耳に入るたびに胸がヒリヒリと痛くなる。

さすがに忙しいのか隼からの連絡は途切れているが、優莉は自分たちの仲は大丈夫だと言い聞かせていた。

いよいよオープン当日。つい最近まで店舗勤務だった優莉と門倉は手伝いに借り出された。
久しぶりに店のユニフォームに身を包むと自然と気持ちが引きしまる。ディレクトール~いわゆる支配人のユニフォームを着た隼をはじめて見て、ひとり胸をドキドキさせた。

こっそり送られた目配せに翻弄されながら、開店時間まで準備を進める。一週間前に納品されたコースターもひとつずつ簡単にラッピングを済ませて会計カウンターの下に設置完了だ。

備品を持った優莉が奥のスタッフルームから忙しなく出ると、そこでソフィアとぶつかりそうになった。髪をきっちりとまとめ、白いコック帽に白いユニフォームをまとった彼女はスタイルの良さがさらに際立って目にも眩しい。