「…今、何とおっしゃいました?」
パタパタと目の前で扇子を仰ぐお母様を睨む。
お母様の隣ではお父様がニッコニコと笑って座っているだけ。

久しぶりに本殿に入れてもらえて。
面と向かって両親と話す機会が出来たかと思えば。
何だそりゃと私は心から突っ込みたい。
「ですから。カレン。貴女は蘭様のところへ嫁ぎなさい」
「…お断りしますわ」
真正面から見るお母様はどこかやつれている。
お母様は顔を扇子で半分隠しながら。私と目を合わせることはない。
「じゃあ、カレン。いますぐ、ここから出て行って独りで生きていきなさい」
黙っていたお父様が、急に言葉を発する。
お父様は見ない間におでこの面積が広くなっている。
カツラを買うお金すらない。

何年振りかに入ったこの宮殿は掃除する人がいないのか。
ほこりっぽい。
わかってはいる。
わかってはいたけど。
でも、何であの男に嫁がなければならないんだ…。
「おまえのような容姿でも嫁に貰ってくれていると蘭様が言ってくれているのだ。いいか、カレン。嫁に行けば今まで以上の幸せを手に入れることが出来る。それを断れば、もうここにはいられない。おまえには家もなければ助けてくれる人だっていないのだ。現実を受け入れろ」
「そうですわ。貴女はその容姿である以上、自分の意志を持つことなんて許されない運命にあるんですのよ」
「……」
あまりにも酷い両親の言葉に。
私は黙り込むしかなかっけど。
泣く…を通り越して。
怒りで溢れる感情。
大声で汚い言葉を発して。
両親を罵ってやりたかった。