その夜、部屋で勉強をしているとコンコンとノックの音が聞こえた。



「さくら、ちょっといいか」



ドアが開いて顔を出したのはお父さん。

今日も仕事終わりだというのに完璧に整えられた身だしなみはさすがとしか言い様がない。



「どうしたの?お父さん」


お父さんがわざわざ部屋まで来るなんて、大方予想はついている。

持っていたシャーペンを置き、呼吸を整えた。



「次の土曜に一之瀬さんとの約束が入った」

「⋯」

「今日は一之瀬さんの所に出向かう用があってそこで凛也くんにも会ったんだ。それで次の休日に出掛けてはどうか提案したら良い返事が貰えてな」

「⋯」

「だから土曜日、予定は絶対に入れるなよ」



それだけを言ってドアを閉めようとするお父さんに「ちょっと待ってよ!」と声を荒らげた。



「なんだ」

「なんだじゃなくて、⋯お父さん!」


足を止めさっきと同じ様にわたしの方を見るお父さんからは何の感情も読み取れない。

きっと、お父さんが何をしにここに来たのかわたしがわかっていた様に今からわたしが言おうとしている言葉をお父さんもわかっているのだろう。


だから、そんな冷たい表情をしているんだ。