すぐ近くにいた王子様は、ぴったりのタイミングで 美咲の心を掴んでいく。
 
「斉藤係長、出身はどちらですか?」

初めての食事に、佳宏は 天ぷらを選んだ。

並んでカウンターに腰掛けていると、向かい合って食事をするよりも 距離が近い。


揚げたてを次々、お皿に受けて 美咲は 歓声を上げる。
 

「俺?岐阜。すごい田舎だよ。」

佳宏は 会社にいる時よりも 寛いで話す。
 
「私も田舎だから。じゃ 斉藤係長 地元では 相当成績良かったですね。」

佳宏は 神奈川県の国立大学を 卒業していた。
 


「うん。もう神童の域 だったな。」

と言って 照れた笑顔を 美咲に向けた。

自虐的に聞こえる 佳宏の言葉に、美咲が ハッとして 佳宏を見つめると、
 


「本城さんも、そうでしょう?」

と佳宏は 優しく言った。

美咲は 何故か胸が熱くなり、涙汲んでしまう。


黙っている美咲に、問いかけるような 目を向ける佳宏。
 


「やっとわかってもらえた。」

美咲はポツンと言う。

佳宏は小さく頷いて、
 


「勉強でき過ぎると、田舎では辛いよね。」

と言って美咲の目を見る。


たったそれだけの会話が、美咲の心を救った。


佳宏が 美咲の傷を 共有してくれたから。

美咲は すべての警戒心を 解いていた。
 


「本城さん、頑張り屋だから。今も 結構無理しているでしょう。」

佳宏は さらに優しく美咲を包む。
 

「それ以上、言わないで下さい。私、本気で泣きますよ。」

美咲は 真っ直ぐ 佳宏を見て言う。
 
「そっか。じゃあ今は食事しよう。美味しく食べたら、その後で 泣いてもいいよ。」

と佳宏は笑った。

美咲も笑ってしまう。
 

「もう。そんなこと言われたら、泣けませんよ。」

と美咲が言うと、佳宏は 満足気に微笑んだ。