「本城、東京ってどんな感じ?」

中学生の頃、美咲が 密かに憧れていた聡が 声をかけてくる。
 
「すごいよ。家も多いし、人も多い。色々な人がいるよ。」

美咲が気負わずに話すと 聡は
 

「就職も東京でするの?」

と聞いてくる。

聡は 地元の国立大学に進学していた。


「そうね。帰ってきても、仕事ないでしょう。これから少しずつ、就活始めるわ。」

美咲は 少し優越感を感じていた。


昔、成績が良い美咲を 馬鹿にした聡。

それは多分、聡の負け惜しみだったと 美咲は気付いた。
 


「本城の大学なら、就職も大手なんだろうな。」

聡が言った。

美咲は軽く首を傾げ、
 
「どうかな。横山くんの大学だって 就職は安心でしょう。」

と聞き返す。
 
「全然。公務員がいいところ。あとはみんな 地元の中小企業だよ。」

と聡は 自棄気味に答えた。



そして小さな声で
 
「東京の話し、もっと聞きたいから 二人で抜けちゃおうか。」

と美咲の耳元で囁いた。驚いた顔の美咲に
 
「俺、先に出て 駐車場にいるから。少ししたら 本城も出てこいよ。」

と続けて、そっと席を立った。
 

美咲は フッと笑う。

中学時代の疎外感が 報われた気がして。

聡は相変らず調子が良い。


どうせ東京に帰るのだからいいか、と美咲は思う。

しばらくして
 
「ごめん。先に帰るね。」

美咲は そっと携帯電話に出るふりをして、隣の女子に言う。



そして聡の車に乗った。