「分からない、この問題難し過ぎるよ」


わたしは頭を抱えて問題集と向き合う。数学は苦手だ。図形や関数は専ら出来ない。



先生の都合で自習となっているが、課題の難易度がわたし向きではない。ほんとにこれ解けるの? と疑ってしまう。




「俺が教えてやるよ」


松菱くんが余裕の笑みを浮かべていた。


「どこが分からないんだ? 言ってみ」



「この、問の四なんだけど……」問題集の左ページを指で指す。


「みかさは図形苦手なのか」


「そうなの、分かる?」


形式的に尋ねたが、松菱くんがこの問題が解けるだろうと言う事は自明の理だった。


 ここ数週間で知ったのだけれど、松菱くんは頭が良かった。私の分からないことは、大概知っている。



「見せてみな」


松菱くんは自分の椅子をわたしの席に移動させ、問題集を覗き込むように見た。


「ああ、これはな」と視線を持ち上げた松菱くんと近距離で目が合い、ぐっと心臓を掴まれた感覚になる。




「みかさ? どうした」


「ううん、なんでもない。どうやって解くの?」


頭を振って、我を取り戻す。
危ない、見蕩れていた。



 松菱くんの説明は、先生よりも理解しやすかった。
丁寧にわたしの分かっていない所を掻い摘んで説明してくれる。



「解けた……」

わたしは次の問題も容易く進むことが出来た。



「みかさは理解するのが早い」


松菱くんの大きな手が、わたしの頭をクシャッと撫でた。


「よく出来ました」と相好を崩す姿は、もはや不良とは程遠い。