王女の道を選んでから、三度目の満月の晩。
 メアリは眠りの中で、閉じた双眸に熱を感じていた。

 ぼんやりとした意識の中、誰かに抱えられている感覚に気付く。

 視界に映るのは並び立つ木々と、様々なモチーフの彫刻が施された石造りの建造物だ。
 建物の顔となるファサードには、ダイヤの形をしたステンドグラスが飾られている。

(教会……?)

 一体ここはどこなのか。

 メアリは、自分を抱えている人物が誰であるのかを確かめようと首を動かす。
 しかし、その特徴を何一つ掴むことができぬままに、メアリは現実へと覚醒した。

 瞼が震え、ゆっくりと開かれる瞳には予知の紅い名残り。
 すぐになりを潜めた熱を追いかけるように、メアリは体を起こした。

(知らない場所、だよね)

 朝日の差し込む室内で、光を纏い気中をゆっくりと舞う埃を眺めながら心当たりを探していると、ノックの音が響く。
 侍女が朝の支度にやってきたのだろうと、メアリがベッドから降りると、扉越しに聞こえたのはユリウスの声だ。

「おはようございます、陛下。お目覚めですか?」

「起きてます! どうぞ」

 答えると、控えの間からユリウスが入室した。
 扉が閉まればふたりきりになり、ユリウスはメアリの柔らかな頬に口づける。

「おはよう、メアリ。気分は?」

 恋人としての挨拶に頬を緩めながら、メアリもおはようと挨拶を返した。