布告が張り出される少し前の時刻。

 前日の疲れにより、いまだ寝台にて眠るメアリを夢から呼び起こしたのは、侍女の声ではなく愛しい人のもの。

「おはよう、メアリ」

 寝台がそっと沈む気配がした後、メアリの額に柔らかな何が触れた。
 それは瞼にもやってきて、優しく頬を掠めると最後に唇に落とされる。

「メアリ、起きないのなら、このまま君を食べてしまおうか」

 色っぽい囁き声が聞こえると、耳を食まれ、さすがにメアリは目を覚ました。

「ん……ユリウス……くすぐったい……」

「どうする? このまま俺に食べられてしまう?」

 からかいを含んだ甘い声。
 首筋に吐息を感じて、メアリは思わず身を捩った。

「だめ……起きないと」

 叶うなら、一日中彼の腕の中に閉じ込められていたいけれど、今日も朝食が終われば予定が山積みだ。

「残念だな。じゃあ、我慢する代わりに約束を。今夜の晩餐会の後はふたりで過ごそう」

 昨夜はユリウスも仕事に追われて共に過ごせなかったが、今夜こそふたりきりで祝いたいと耳元でせがまれ、メアリは頬を桃色に染めつつ首を縦に振る。
 メアリの返事に顔を上げたユリウスは、蜂蜜のような色をした瞳を嬉しそうに細めて「ありがとう」と微笑んだ。

「侍女を呼んでくるよ。港に行く時は俺が護衛につくから、また後で」

 伝え、もう一度だけ軽くメアリと唇を合わせると、ユリウスは寝室から去っていった。

 ユリウスとは戴冠式前に会ったきりだった。

 それからは互いに忙しく、顔を合わすことはあれど会話もないまま一日が終わってしまった。

 だからきっと仕事の前に朝の挨拶に訪れ、侍女たちの代わりに起こしてくれたのだろう。

(さあ、女王の勤めをしっかりとこなせるように頑張ろう)

 ユリウスの気遣いと愛情を受け、幸福感を胸に体を起こしたメアリは、寝台から降りるとぐんと高く腕を伸ばした