「 灰谷、飲まないのか?」
『 …… 』
あずるがいれた 温かいコーヒー
テレビをつける
黒いパーカーにジーンズ
少し怠そうにソファに座って
その湯気を見つめている灰谷の表情は
何時もと変わらない様にも思えるが
――― 何処か空虚で
「 … 青山さん、ソファ貸して 」
それから"寝る"と一言だけいって
腕を枕に、体を横たえた
「 リュウジ、これ… 」
心配そうなあずるが、手渡して来たのは
クローゼットから新たに出された
薄いブラウンの、柔らかい毛布
「 灰谷 」
後ろからそう 名前を呼ぶと
背もたれ越しに、腕が延ばされ
肩まで潜ると そのまま何も話さなくなった
テレビのボリュームを下げる
朝の番組のサイレント
口をしきりに動かしている男女
画面下の、白いテロップが
薄明るい部屋の中に、光を散らす
昨日から" 有名ダンサーYO-RU 死亡 "
この話題で
ニュースやワイドショーも持ち切りだ
畑と世代が違うせいか
会った事はないが ―――
「 … トオヤ
ユカちゃんと、何かあったのかな… 」
「 ――― ユカちゃん? 」
「 あ… 何となく
そう…思っただけなんだけど… 」
"ユカちゃん"というのは
俺があずると再会したあの日
コンテスト会場でベースを貸した
とても小さな、女の子の事だ