翌日、ランチタイムに 携帯電話が鳴る。

着信は、智くんのお母様からで。
 
「麻有ちゃん、ちょっと話したい事があるの。仕事の後、会えないかしら。」
 
「5時半過ぎなら大丈夫です。」


私は急に不安になる。

昨日の幸せは やっぱり夢だったのかもしれない。

 
一緒に食事をしていた美咲に話す。
 

「絶対、反対されるんだわ。智くんから身を引いてって 頼まれるのよ、きっと。」私はすでに半泣きで。
 
「まさか、今時そんな事ないわよ。」美咲は呆れたように笑う。
 
「でも、家の格が違いすぎるもの。」私は言うと、
 
「家の格って。それこそ、今時ないでしょう。智くんの家って、どれほどの格なのよ。」

何も知らない美咲は、楽観的に言う。
 


「廣澤工業の社長なの、智くんのお父様。」


私の言葉に、美咲は驚いた声を出す。
 

「えー。また麻有子に驚かされた。智くんって、ただのエリートサラリーマンじゃないの?御曹司じゃない。」
 
「智くんは次男だし、会社は継がないって言っているけど。でも結婚相手って 家も関係するでしょう。」
 
「麻有子、すごい人 彼氏にしたんだね。」

と美咲は言った。
 


私は、お母様に会う事を 智くんに連絡した。

昨夜、私が帰った後 ご両親は喜んでくれたと、智くんは言っていたから。
 

《大丈夫だよ、麻有ちゃん。心配しないで おふくろに会ってあげて》


私は 智くんのように楽観的になれずに。

午後中 不安な気持ちで、全く 仕事に身が入らなかった。