放課後、日直の私は日誌をテキトーに書き終え、窓の外をボーッと眺めていると、ガラッと扉が開いた。

「お、いたいた。日誌書いてるかー」

入って来たのは担任で、言いながら私の所まで来たので「はい」と言って日誌を渡した。

「書き終わってたんなら持ってこいよな」

「今行くとこでしたー」

「あっそーですかー」

先生はこの絡みやすさに加え持ち前の容姿の良さで生徒から人気があるのは勿論、彼に恋する女子も少なくない。かく言う私もその一人だったりする。

「てかセンセ、バレンタインのお返し貰ってないんだけど」

「あ?俺は誰にもあげないっつったろ」

「貰うだけ貰っといて?」

「チョコに罪はねえ」

「ふーん、そーやって幼気な女心を弄ぶんだ」

「お前なあ…」

「違うなら今お返し頂戴」

「何も持ってねーけど」

「ちゅーでいいよ、ほら」

そう言って私は冗談半分で目を閉じ唇を突き出す。まあ本気でしてもらえるとは思ってなかったが、案の定私の顔にはキスではなく硬い何かがぶつかった。目を開けるとどうやら日誌で軽く叩かれたようだった。

「何すんのーー」

「マセガキに制裁」

「先生がそんな口悪くていいんですか」

「うるせーわ。それ、同級生の前でやったら襲われんぞ」

「はあ?誰がこんなこと––」

そこまでいうと先生はがさつに私の頭を撫でてきた。ある程度撫でると気が済んだのか、一度離して今度は優しく私の頭の上に手を置きすぐ離しては私に背を向ける。

「俺に相手して欲しけりゃもうちょい大人になってから来るんだな」

そう言いながら歩いていくその背中に一言「セクハラ教師!」と投げてやった。そして私はグシャグシャにされた髪をそのままに、顔の熱を引かせようと暫くその場から離れなかった。



おまけ 先生side


教室を出、扉を閉め切る寸前聞こえてきた言葉。

「セクハラ教師!」

「よく言うわ」と聞こえるはずもない小声で返した。
話してる途中から赤く染まっていく耳は明らかに自分への好意、加えてあのキス顔、最近の高校生の恐ろしさを改めて実感した。下手すると流されそうな勢いをなんとか頭に『教育委員会』の文字を連ね抑えていた。正直子供と思って油断したと、一つため息を吐いた。そして一瞬でもアリかもと思ってしまった自分にももう一つ。色々とショックだが引きずるわけにもいかず、気持ちを切り替え早く帰ろうと仕事に戻る。
それにしても、生意気な生徒にも可愛いとこはあるもんだと。あくまで、生徒として。