午前八時


毎朝同じ時間に五十名ほどが揃う食堂

食堂とは名ばかりで何故か畳
床の間には掛軸、床脇には花と刀が飾られた“ザ和室”

当然ながら全員が正座

一見すると異質な雰囲気のここで
これだけの人数が集いながら
水を打ったような静けさは

ある意味圧巻である


目の前のテーブルには湯気の立つ
料理が並べられ

今にも箸を取りたくなる衝動を抑えるので必死

そんな一時の静寂を打ち破るように


上座の中心に座る男がパチンと両手を合わせた


それを待っていたかの様に

ここに集う者全てが同じように従った



「「「「いただきやすっ」」」」



「煩っ」


私の出した呟きは
目の前に並ぶ奴等の野太い声に掻き消された・・・はず


大して気にも止めずに
一人遅れて手を合わせると


「いただきます」


態と声を溢した


その小さな呟きに
斜め前方に座る男が反応した

チラッと一度こちらを見て
視線を絡ませる

僅かに細められた瞳は

揶揄うようでいてその双眸にトクンと胸が跳ねた



これが毎朝の風景







「千色《ちい》今日面接か?」


食事も終盤に差し掛かったところで
上座の中心から父の野太い声が聞こえた


「・・・うん」


何故今聞く?ほらほら
全員が一瞬動きを止めたよ?

態々口にするほどのことでもない
娘の就職試験を

聞こえるようにしたってことは・・・

頭の中に巡る色々を
興味もないのに浮かべただけで

最後にお茶を飲み干して
席を立った


「お嬢」


私の脚を止めるように声がかかった

無反応のまま派手な襖絵の前に立つと

僅かに遅れた声の主が
スッと襖を開いた