side 永遠
こんなことならビンゴが始まる前に部屋に戻れば良かった
「木村永遠君、今夜二人きりで過ごしたいです」
スピーカー越しに聞こえた自分の名前に迂闊にも反応してしまった
「あ゛?」
「あー、これは困りましたね」
渋い顔をしながらも目が笑いを隠せていない大和
「永遠、マズいな」
なんだか哀れむような視線を送ってくる亜樹
「サッサと行って断って来なさいよ」
断りたいのは山々だから優羽の言葉が勘に触る
「まるちぃ、泣いちゃうんじゃないかな?」
ストレートな琴ちゃんの声に
千色の涙を思い出して胸が軋む
「表面上断れねぇんだから
とりあえず受けた振りして来いよ」
「あぁ」
不本意ながら
恒例のイベントを壊す訳にはいかねぇ
千色は分かってくれる
そう信じて・・・
重い足を動かして前へと出た
生徒の盛り上がる席から少し離れた先に見えた千色は呆然と此方を見ていて
その表情から直ぐにでも断りたい思いを
無理矢理閉じ込めて
「・・・あぁ」
返事をすれば
視界の隅の千色が
会場を出て行くのが見えた
・・・クソッ、絶対泣いてる
今すぐ行って誤解を解いてやらなければ
歓声を上げながら騒ぐ奴らを掻き分けようとする俺の腕が
急に掴まれた
「あ゛?」
振り向き様睨みつけると
ビンゴで一抜けの女が「逃げるの?」と挑発してきた
「あ゛?逃げるだと?」
掴まれた腕を振り払い向かい合い
原形も分からない程塗りたくられた顔を睨みつける
急に怯えたように震える女は
ビンゴカードを差し出して
「木村永遠君、今夜二人きりで過ごしたいです」
さっきと同じ“お願い”を口にした
それを見ていた先生から
「此処のお庭はライトアップされていて雰囲気が良いそうですよ」
余計な提案が出て
囃立てる生徒から逃れるように
外へと向かった