side 永遠




「永遠、トランクありがとう」



千色の声を聞いた瞬間
身体から力が抜けた


「あぁ、悪りぃ」


先に見える人集りから上がる歓声は
俺へと向けられている

それはこれまでの通常で
学校では校門を入ってから教室までの間
囲まれて歩くのを態々散らしたりはしない

それは一年の時にあった
琴ちゃんの連れ去り事件からだ

女の妬み嫉みは形を変える
その鉾先を間違った方向へ向けない為に
ある程度黙認するということ

此処で千色を“特別”にすれば
琴ちゃんの二の舞いにならないとは言い切れない

だから・・・
奥歯を噛みしめると出迎えたのに
離れて行く千色を止めることはしなかった


・・・・・・クソッ


若頭襲名と婚約を一ノ組へ報告へ行ってから
俺の毎日は激変した

勿論、悪い方へだ

毎日毎晩襲名披露へ向けての根回しと招待状の手渡し
まともに千色の顔を見て話したのはいつだろうか


それもこれも襲名披露までと気持ちを切り替えて

出来るだけ千色が不安にならないように

メッセージを送ったり
『おやすみ』だけの電話もするようにした


それでもこの二週間余りで
確実に二人の距離は離れていて

苛々した気分は抑えきれない程に膨れ上がっていた


「「永遠様ぁ」」
「「「おはようございま〜す」」」
「「沖縄楽しみですね」」


俺の周りをグルリと囲んだ女達に一瞥もくれてやることなく

長いエスカレーターへ視線を移せば
上りきった先に愛しい背中が僅かに見えた


・・・・・・クソッ


苛々した気分が舌打ちに変わり
思ったより響いたそれに

周りの女達が一瞬息を飲んだ