ーー五月下旬の土曜日ーー


大吾の車で木村組に着いたのが午前八時


本当は金曜日そのまま此方へ帰る予定が
どうしても外せない会議が長引いたことで叶わなかった


セキュリティチェックを受けた後で車を降りた

そこから歩いて大きな門を潜ると息を飲むような光景が目に飛び込んできた


深い色のスーツを纏った組員さん達が出迎えの為に玄関までの長いアプローチの両脇を固めている


その先、玄関を背にこちらを向いているのは
前回とは違うスーツを着た恐ろしくも美しい永遠だった

見慣れた風景でも規模が違いすぎて呆然と眺めていれば


「千色、来いよ」


視線の先の永遠がこちらに向けて手を差し出した


「・・・はい」


一歩、一歩と永遠に近づくたび
両脇を固める組員さんが頭を下げる


今更ながら此処へ嫁ぐということが実感として湧いてきた


ゆっくり時間をかけて
永遠の元へたどり着くと
出された手に捕まった


「キャッ」


「千色、よく来た」


背中に回された手がトントンとリズムを刻んでいて

その大きな手に気持ちが満たされていく


「大吾、先を歩け」


「承知」


永遠のひと声で

私の背後に付き添っていた大吾が玄関引き戸を左右に大きく開いた


永遠に肩を抱かれて入ると


組長を真ん中にして家族が横並びに待っていた


永遠の腕の中から抜け出して
挨拶をしようと頭を下げたところで


「今日から“ただいま”だ」


組長の低い声が降ってきた


「そうよ、千色ちゃん」


笙子さんの声に頭を上げて頷くと
もう一度小さく頭を下げ


「ただいま」


言われた通りに声を出せば


「おかえり」


優しく笑った組長がウンウンと頷くのが見えた