「本当にいいのか? 3人もいっぺんに」
「いいのいいの、今うち私しかいないから」

 そんなリディアンちゃんの明るい声が大分上の方から聞こえてくる。

 あれから彼女が仕事を終えるのを待ち、今私たちは彼女の家へと向かっていた。
 家は先ほど私が見上げた岩山の中腹あたりにあるらしく、彼女が店からもらってきた小さな火を頼りに長く急な階段を踏み外さないよう慎重に登っていかなくてはならなかった。

「大丈夫かよ、“お兄ちゃん”」

 その声に驚いて見上げると少し登った先でラグが呆れ顏でこちらを見下ろしていた。
 彼から本当に「お兄ちゃん」なんて言われるとは思っていなかった私は内心びっくりしつつ答える。

「だ、大丈夫」
「ったく、相変わらず男のくせにどんくせぇな」
「は、はは」
「もう少しだから頑張って!」

 聞こえていたらしいリディアンちゃんからそんな声が掛かって、ああ、わざとなのかと気づく。

「はいー!」

 なるべく低い声で返事をすると、ラグは今度は小声で「しっかりしろ」と言って再び背を向けた。

 うんと小さく答え、私はもう一踏ん張りだと脚に力を入れた。