騒然とした図書室は徐々に静けさを取り戻し、私もなんとか業務に取り組んだ。とはいえ不安で一杯で、心ここにあらずな状態だったのは言うまでもない。

 一時間ほど経った頃、内線がかかってきたので出てみれば、なんと明神先生からだった。


『トキさんは無事だよ。命に別状はないから安心して』


 そのひとことで、どれだけホッとしたことか。身体から力が抜けて涙腺も緩み、半泣きで何度もお礼を言った。

 先生から教えられた祖母の病名は、老人性虫垂炎。いわゆる盲腸で、発症する人も多い身近な病気のイメージだが、高齢者の場合は注意しなければいけないという。


『高齢者は症状を感じにくいから、発見が遅れて重症化することがあるが、トキさんは痛みもその場所も明確だったからよかった。まだまだ若いね』


 淡々とした口調で最後に茶化され、私はやっと笑うことができた。わざわざ電話で報告してくれたのも、明神先生の心遣いであることは明らかで、感謝しっぱなしだ。