研修をしている中で親しくなった患者の男性が亡くなったその日、俺はただただ綺麗な夕焼け空を見上げていた。

 俺の産みの母が肥大型心筋症だと知ったのがきっかけで心臓血管外科医を目指したが、いざ現場に飛び込んでみれば自分の無力さを痛感するばかり。

 今日の患者も、急変した場にたまたま居合わせた俺がもっと早く適切な処置をしていれば助かっていたかもしれない。まだまだ手術に携わることすら許されない立場だが、知識があるのになにもできなかった自分に失望した。

 遺体にすがって泣き崩れる家族の姿も、目に焼きついて離れない。一番悲しくて悔しいのは彼らで、自分が落ち込んでいる場合ではないのに。

 気がつけば頬が冷たくて、さらにどこからか視線を感じた。濡れた頬をそのままに振り向けば、車椅子に乗った女の子がこちらを凝視しているではないか。

 男が泣いているところを見られるなんて屈辱的だが、そのときはどうでもよくて、名前も知らない彼女に弱音をこぼしていた。

 彼女もまた自分に自信を失くしている子で、関わったのはほんの数回だったにもかかわらず、強烈なインパクトを与えられた。