僕が家に帰ると、ニナも当たり前のように一緒に中へ入ってきた。

「お邪魔しまーす。ってダメって言っても入るけど」



そう言って舌をペロッと出しつつ、いそいそと靴を脱ぐニナ。

僕は不思議とそのことを不審に思わなかった。

ニナとは兄妹のようにずっと一緒に暮らした気さえしてくる。実際は、今朝出会ったばかりの見知らぬ少女のはずなのに。

「お父さんとお母さんは共働きでいないから、気にしなくていいよ」

「そんなこと言われなくても分かってるよ」



そんなやり取りをしつつ、二階の自室に向かう。

ふと振り返ると、ニナが立ち止まって階段の壁に貼られた一枚の絵を見つめていた。

それは僕が十歳ぐらいの頃に描いた絵だった。夏休みにキャンプに行った時の絵で、たくさんの友達に囲まれて笑う自分の姿が描かれている。

「どうしたのニナ?」

「この絵、私が私になる前に書かれたものだから見たことないの。この真ん中にいるのが想太?」

「うん、そうだよ」

「想太の隣にいる女は誰?」



妙に低い声で問いかけるニナに、僕が答える。

「その子はキャンプで一緒の班になった女の子だよ。一番仲が良かったから隣に描いたんだ。それがどうかしの?」

「……この子からは普通じゃないオーラを感じる」



ニナが暗がりから僕を見上げた。



「この子は想太にとっての何だったの?」