徒に囲まれた堀川君とその後を付いていくマナが見えた。

彼らは段々と教室から離れ、校舎を出て体育館の方に向かっていく。

この中学校では休み時間に体育館は一般開放されていないので、人気は全くない。

見つからない様に慎重に後を付けていくと、やがて彼らは体育館裏の薄暗い平地で立ち止まって堀川君を取り囲んだ。

よく見ると堀川君を連れてきた男子生徒たちはみんな顔がなかった。何だかそれはちょっと卑怯だ。だって、堀川君はあんなに怯えた表情をしているのに。

男子生徒の一人が堀川君を怒鳴りつけた。堀川君は震えあがって、ポケットから何かを取り出そうとしている。

どうしてあんなに怯えているのか分からないけど、この状況が良くないものだということだけは何となく分かった。助けなきゃ。

「ねえ、そんな所で何をしてるの?」



僕が体育館の影から現れて尋ねると、生徒たちは一瞬ギョッとした表情を浮かべた。

が、こちらが一人しかいないことを確認するとホッした様子で詰め寄ってくる。

「お前、何しに来たの?」



開口一番そう尋ねられ、僕は正直に答える。

「何だか堀川君が可哀そうだから止めに来た」

「止めに来た? お前に何が出来るって言うんだよ?」



ふと横を見ると、マナが相変わらず笑みを浮かべながら全身から赤黒い光を放っていた。

堀川君はどうすることも出来ず、僕と男子生徒を交互に見て体を震わせている。



――だからどうしたと言うのだろう?



「僕は何も出来ないよ? 成績も悪いし、運動神経も悪いし。だけどそれが何か関係あるの?」



僕は思った通りのことを告げた。ただ、それだけなのに。

男子生徒たちは、急に僕を不気味なものでも見るかの様な目で見た。

「俺たちのことをからかってるのか?」

「からかってなんかいないよ。ただあんまりみんな楽しそうじゃないから、仲良くして欲しいなって思って……」

「ふざけんのも大概にしろよ――」



男子生徒が僕の胸に手を伸ばして来たけど、それを別の男子生徒が止めた。

「おい、やめとけ! こいつなんかヤバいぞ」

「放せよ! さっきからわけ分かんねえことを……!」

「落ち着けよ! もしかしたら誰かを呼んであるのかもしれないし、こういう奴は手を出したら後で何をされるか分かんねえ」



ハッとした様子で男子生徒が手を下ろした。

僕にはよく分からないやり取りだったけど、とりあえず怒りが収まったみたいで一安心だ。

と思ったけど、男子生徒たちがさっさとその場から立ち去り始めたのを見て僕は慌てて声をかける。

「ねえ、どこ行くの? みんなで一緒に遊ばないの?」

「は⁉ 失せろ! 二度と俺たちの前に現れるな!」



男子生徒たちが立ち去り、罵倒された僕は少し落ち込んでその後を見送る。

見ると、堀川君は棒立ちになったまま僕を黙って見つめていた。そうだ、僕には堀川君がいるじゃないか。

「堀川君! 二人だけになっちゃたけど一緒にご飯を食べようよ」

「い、いい……一人で、食べるから……」

「どうして? あ、二人じゃないか。ニナとマナもいるもんね。四人で仲良く食べようよ」

「ニナ……マナ……? 何を言ってるの……?」



ますます怯えた表情になり、堀川君が後ずさる。

「どうして逃げるの? また僕、変なこと言っちゃったかな?」

「……君、頭おかしいよ」



……え?

僕、今何て言われたの?

「堀川君?」

「こっちに来るなッ!」



堀川君はまるでバケモノから逃げ出す様にその場から走り去り、そして二度と戻って来なかった。