「ニナ……ニナなのか?」



僕が掠れる声で尋ねると、彼女は微笑みを浮かべたままこちらに近づこうとする。
が――

「こっちに近づくナ!」



マナが鋭く叫ぶと、ニナは足を止めて不愉快そうに唇を曲げた。

「何よ、マナ。貴方に指図される覚えはないんだけど」

「よくそんな図々しいしいことがいえるネ。オレのおかげで姿を現せたくせに」

「そうよ、貴方が私の想太に近づいたから私は来たの。早く私の想太から離れて」



激しく言い合う二人を前に、僕は困惑する。

「ちょっと待って! 説明してよ、どうして二人は争っているの?」

「オレたちは元から相容れない存在なのサ。なにせ、悪魔と呼ぶべき存在がいるとしたらそれはあの女に他ならないからネ」

「だったら貴方は自分を天使とでも言うつもり? そんな真っ黒な身なりをしているのに?」



そう言っておかしそうに笑うニナに、マナが毅然と告げる。

「そんなことはどうでもイイ。とにかく二度とこの男の前に姿を現すな」

「……どういう風の吹きまわし? 貴方は契約者以外の人間には一切干渉しないはずじゃなかったの?」

「状況が変わったのサ、お前も分かっているだろう。この男は昨日堀川達樹と接触し彼の情報を得た。そしてこの男は無意識の内に世界の真理に気付いた。それによって彼の脳内でのオレの役割も書き換えられてしまったのサ……『想太を守れ』とネ」

「ねえ、さっきから何の話をしているの? 世界の真理って何? 僕の脳内? 今起こっていることは現実なの、それとも幻想?」

「想太は黙ってて! 今はただ、私の言うことだけを信じていればいいの!」



ニナが鋭く遮ってくる。一体どうしてしまったんだろう……こんなに焦った様子のニナを見るのは初めてだ。

「想太、キミは本当にこのままでいいのかい? 現実と虚構の狭間で永遠に彷徨う人生デモ」

「想太! マナに耳を貸しちゃダメ!」

「想太、オレはキミに求められて来た。それは心のどこかで変わりたいと思っているからダ」

「想太! 貴方は変わる必要なんてない! 何も知らないままでいいの!」

「想太」

「想太!」