大地は私の髪に顔をうずめた。

「…花嫁衣裳を着たお前を見たら、みんなどうなっちゃうんだろうな」


「…………?」


 潤んだ瞳で私を見ながら、彼は小さくため息をついた。

「心の輝きが全部、俺達には見える。さくらのはまるで、桜色の宝石みたいに綺麗だから…」


 …私が、宝石?


「すごく甘くて、いい香りがするし…」

 彼は私の肩に手を乗せ、首筋に顔を近づけ、香りを嗅いだ。

「……血、吸っていいか…?今…少しだけ…」

 吐息が、首筋にかかる。


「…駄目」


「……じゃあ、式が終わってからなら、いい…?」


「……」



 コンコン。

 ノックの音。


「…はい」


 私が返事をすると、父と母が入って来た。


「綺麗ね、さくら…。おめでとう」

 母は私の手を取り、花嫁姿を嬉しそうに褒めてくれた。

「18年前、我々が君達を婚約させた事が…良かったのかどうかはまだ、わからない」

 父は、目に涙を浮かべながら続けた。

「だが、今日までさくらと一緒に過ごせた事には、本当に感謝の気持ちで一杯なんだ」


「お父さん」


 私まで、思わず涙が溢れて来る。


「大地。さくらをよろしく」


 大地は父の言葉に頷いた。


「はい。幸せにします」


 母は微笑み、大地の肩に手を乗せた。


「あなたも一緒に、幸せになってね」



「…はい」