その日の夜7時。

 『カフェ・ノスタルジア』の二階にある自宅の中に、私は大地を連れて来た。

「…と、いうわけで」

 我が家の夕食の席に、彼は嬉しそうに一緒に座っている。

「……どういうわけだ?」

 父がぼそっと呟いた。

「大地をしばらくうちに泊まらせて欲しいの。だって彼は、私の婚約者だし!」

「突然ご迷惑をおかけして、すみません。今日からよろしくお願いします」

 何故か妙に礼儀正しく、ぺこりと大地は私の両親に頭を下げた。

 久遠様は梅を連れて、自分の世界に帰ってしまった。元気を無くした大地を見るに見かねた私は、わが家へ連れて来てしまったのである。

「…ようこそ」

「会えて嬉しいわ」

 父と母は少し緊張している。
 無理もない。

「とりあえず食べよ!いただきます!」

 二人には、色々聞きたくてたまらない。

「…いただきます。これ、どうやって食べんの?」

 大地は不思議そうに鍋の中を覗き込み、みんなと同じように箸を持った。

 夕飯は何と、私の大好物のすき焼き!

「出来上がるまでちょっと待ってて、大地」

 私は母と一緒に具材を鍋に入れ、少しずつ質問を始めた。

「ねえ、どうして大地と私の婚約の事、ずっと私に内緒にしてたの?」

 父は私を見て、戸惑った様に話し出した。

「…内緒にしていたわけじゃないんだ。…あれが夢だった気がしていたからだよ」