岩時神社は、私の家から歩いて5分。


 その大きな白い鳥居の内側には、秘密の空気が漂っている。


「梅ちゃん、いる~?」


 社務所はがらんとしていて鍵が掛かっており、人の気配が感じられない。


「…誰もいないのかな」


 裏口の戸を叩いても、中から梅ばあちゃんの返事は返って来なかった。


 参道の中央に戻り、葉も花もついていない、裸の大きな桜の木を仰ぎ見て途方に暮れる。


「とりあえず、お参りしよう」


 私は拝殿の前に立った。


 お賽銭を入れ、二礼、二拍手、一礼。


「…神様…」



 声が震える。



 体も、心も、震えてる。





 本当はとても、





 悲しくて、寂しい。






 神様、ごめんなさい。






 ちょっとだけ私、泣いてもいいですか。





「…うう…」





 泣いちゃおう。

 誰もいないし。





 涙がいくつもいくつも溢れては、
 ただ、はらはらと落ちて来る。




 だって、




 いちばん大切にしたかった
 あとちょっとだけだった高校生活が





 何の前触れも無く、終わっちゃった。







「どうして泣いてんの?」







 突然、






 どこかから男の子の声がした。