「会社の中は一通り案内してもらったから大丈夫。」
「そうですか」
莉緒は新しい部長である和哉の前を歩いていた。
課長からデスクを案内するように言われ、前を歩きながら話しかける。
「部長のお荷物は?」
手には何も持っていない和哉に莉緒が話しかける。
「まだ車から荷物持ってきてないんだ。」
「そうですか。よろしければ運ぶの、お手伝いします。」
「サンキュ」
いきなり敬語をやめて話しかけてくる片寄に、莉緒は少しなれなれしいのは海外にいたからなのか?と思っていた。ここは日本だっつーのと心で言っていることは悟られないようにしている。
「いきなりため口かって思ってる?」
急に後ろからグイっと顔を近づけて来た和哉に莉緒が体をそらす。
この人、どうして私の心が読めてるの!?驚きながらも莉緒は冷静な表情を変えないようにする。
「少し」
ここで全く思っていないといえばすぐに嘘だと和哉にはわかってしまいそうだった。
「正直者だね」
和哉の言葉に愛想笑いで答えようとする莉緒。
「その笑顔は嘘だ。」
とっかかりにくい。これが莉緒の正直な和哉との最初のコミュニケーションで感じた印象だった。