忘れられない人がいる。

手放してしまった人がいる。

「会社のためを思うなら…何より、息子のためを思うなら、別れて欲しいんだ」

身分の違いを思い知らされた瞬間を今でも忘れない。

「申し訳ないけれど、これは会社の今後に深く関わることなんだ。

あの子は優しいから、君に言えなかったと思う。

言ったところで、君を苦しめてしまうことを理解していたんだから」

優しい人だった。

いや、優し過ぎる人だったと言った方がいいかも知れない。

「どうか、あの子の前からいなくなって欲しい。

その方があの子のためになるから」

その瞬間に悟った。

私は、彼と結ばれてはいけない運命なんだと言うことを思い知らされた。