「お父さん」

お兄ちゃんがリビングを離れたその後で、周晴さんは乙國さんに声をかけた。

「俺は希里恵をお母さんと同じようにさせません」

そう言った周晴さんの顔を乙國さんは見つめた。

「お父さんがお母さんの異変に気づくことができなかったことを後悔しているように、俺もあの時――希里恵と別れたあの日に――どうして希里恵にちゃんと聞かなかったんだろうと後悔をしました。

俺以外の好きな男ができたのかその男と一緒になりたいのかと、希里恵に聞かなかったことを後悔しています。

だから…今度こそ希里恵と一緒になって、お母さんができなかったことをしたいんです。

好きな人と一緒にいて、一緒に年齢をとって、我が子の成長を見守って、一緒の時間を過ごしたいんです」

「――周晴さん…」

そう言った周晴さんの顔はとてもかっこよくて、私は泣きそうになった。